猫岳

2008年6月15日 (日)

猫岳~本当の最終話~

猫岳~本当の最終話~

「えびまる王、大変です大変です」
えびまるが犬のぬいぐるみを枕にして寝ているところへレオが駆け込んできました。
「むにゃ、むにゃ……もう食べられないよう……」
「なに寝ぼけてるんですかっ!」
レオはえびまるの背中にぎゅう~っと爪を立てて、
「大変なんですっ!」
「なに~、変な鯛なんか食べないぞぅ……」
「変な鯛じゃなくて、た・い・へ・ん・なんです」
「ん~、代返っていうのはひとパパに聞いたことがあるなぁ。してもらったことは100回で、してあげたことは2回なんだって」
「なあ、レオ。代返って何だろう?」
「代わりに返事することでしょ……そんなことどうでもいいんです。大変なんです」
「テレビ見てたらね、ちょんまげのひとが、親分、てぇへんだ、てぇへんだって言ってたよ」
「てぇへんじゃなくて、大変なんです……ん? その、てぇへんなんです」
「そうなのかぁ、そりゃぁ大変だねぇ、レオ。わはは」
ようやく、からかわれていることに気づいたレオは面白くなさそうに顔をしかめていましたが、まあいつものことです。

「ノラックのことなんです」
「ノラックって、青い鳥だっけ?」
「……青い鳥?」
「クッククック、クッククック~青い鳥~♪」
「えびまる王、40歳以上のひとにしか分かりませんよ、それ」
「で、ノラックがどうしたの?」
「しかも全然ダジャレになってないし」

「で、ノラックがどうしたのかなぁ~? レオ」
「はい。えびまる王の代わりに元の世界に行くことになったでしょ」
「うん、そうだったね」
「ノラック、生まれ変わったんですけど、えびまる王の家とはずいぶん遠い所で生まれちゃったんです」
「ほえ」
「しかも、猫お母さんはのらなんですよ」
「ほえ……、うーむノラックという名前を付けたのが悪かったかなあ?」
「どうしてですか?」
「だって~、ノラックってノー、ラック。ツキがない」
「お~、今度はまともなダジャレです。パチパチパチ……って、のんきにダジャレ言ってる場合じゃないです。虹の泉を見に行きましょう」

虹の泉を覗くと、キラキラしたネオンがたくさん見えてきました。
「レオ、知ってるか? あのキラキラした所はお酒を飲むところなんだぞ。ひとパパが大好きなところだ」
「えっ、じゃぁ、えびまる王のひとパパさんがあそこに来るんでしょうか?」
「う~む、どうだろうね。あぁいうところっていっぱいあるからねぇ」
「あ、えびまる王、あそこです。あそこ。あのビルの隙間にノラックがいますよ」

見ると、シャム猫のようだけれども、マークのところが縞の美人猫が子猫たちにお乳を飲ませています。3匹の男の子と2匹の女の子。みんな美しいキジトラです。
3匹の男の子のうちの1匹がノラック。虹の泉から見るとちゃんと分かるのです。

えびまるとレオは毎日、虹の泉を見に来ました。何も起こらずに1ヶ月過ぎたころ。

猫ママが子供たちに話をしています。
「アタシの猫ママはね、それはそれは美しいシャム猫だったのよ。ひとの家にいてね、とても幸せだった。でもね、庭に遊びに来るのらに惚れちまったのさ。猫ママは家出してアタシを産んだの。でも猫パパは浮気者でさ、アタシが生まれるとどこかに行っちゃったんだって。だけど、猫ママはひとママの家に帰らずにアタシを育ててくれたんだ」
子猫たちはきちんと座って話を聞いています。
「猫にはね、ふた通りの生き方があるの。アタシと同じようにのらとして生きるか、ひとに貰われて、ひとの家で生活するかのね。アタシはのらを選んだ。この辺りが好きだしね。飲み屋で働いているひとは良いひとが多くて食べ物にも困らない。暑い日や寒い日もあって、雨が降ると嫌だし、時々は嫌な人間もいる。だけど、なんたって自由よね」
ノラックが首をかしげて、
「ねぇ、ママ。ひとと暮らすっていうのは暑くも寒くもなくて、雨も降らないの?」
「そうね。アタシも猫ママに聞いた話でしか知らないけれど、ご飯に困ったこともなかったし、雨にも濡れなかったらしいよ」
「ねえ、そしたら、ママも一緒にひとのところに行こうよ」
「ダメよ。アタシにはできない。そうしたら、あんた達の猫パパにはもう会えないもの」
そう言うと、猫ママはちょっと離れたところの塀の上にいる大きなキジトラのオス猫を見て、パチッとウィンクしました。

「あんた達はもう乳離れしたんだから、自分たちで考えて選ぶの。のらがいいなら、あまりひとに見つからないようにすること」
猫ママは少し間を開けて、こう続けました。
「そしてね、ひとの家に行きたかったら、良さそうなひとを見つけて、最初は少し離れたところから、にゃって鳴くの。そのひとが気づいて、笑顔で呼んでくれたら……猫好きだったらそうするからね……近づいていって、首をかしげて、すごく小さな声でにゃって鳴くの。それでイチコロだから」

ノラックの頭の中には、微かな記憶がありました。でっかい茶トラ猫が『ボクの代わりに……』と言っている記憶。
ノラックは、そうか、ボクはひとの家に行くんだ。そうなんだ。そう思いました。

そして、ビルの隙間から出て行くと、「にゃぁ」と大声で鳴きました。
「あら~、かわいい子猫~」通りかかったおばさんがすぐそばでしゃがみ込んで、頭を撫でてくれました。
「にゃ」ノラックは首をかしげて小さい声を出しました。

「えびまる王のひとママって、あのひとなんですか?」
レオは眼を輝かせてえびまるを見ました。
「違う……」

「子猫ちゃん、ウチに来る?」おばさんがノラックを持ち上げました。
ノラックの兄弟たちが道路のそばまで見に来ました。
それに気づいたおばさんは、
「あら~いっぱいいるのねぇ……みんないらっしゃい」
そう言うと近くに捨ててあった段ボール箱を組み立て始めました。
4匹の子猫がビルの隙間の奥を振り返ると、猫ママは何も言わずに見つめています。
塀の上の猫パパを見ると
「この人間なら、大丈夫そうだぞ」と言って、大きなあくびをしました。

「あぁ、えびまる王、みんな箱に入っちゃいました……」
「そうだねぇ……でも、まあ、これでもいいんじゃないのぉ」
えびまるとレオはその後もずっとノラックを追いかけて見ていました。
ノラック達はおばさんの家に行くと、写真を撮って貰いました。そして、おばさんはその写真をパソコンで送っています。

「ほほぉ、そういうことか。もう大丈夫だ。レオ」
「どうしてですか? あれは何をしてるんですか?」
「レオ、ボクはね、猫だけどブログっていうものをやってたんだ。だからインターネットには詳しいんだ」
「医者の卵を捕まえる網ですか?」
「なんだ、それ?」
「インターン・ネット……」
「23点」

みなさん、もうお分かりですね。ノラックはちゃんとえびまるのひとパパとひとママの家に行くことになりました。

ねこの国。
「えびまる王、良かったですね。……でも、えびまる王が帰らなくて良かったんですか?」
「なあ、レオ。憎まれっ子世にはばかるって知ってるか? ボクが帰るのはこの次でいいんだ。それにさ、ここで、レオにダジャレの神髄ってのを教えてやんなきゃならないし」
「そりゃぁ、しんどいですねぇ、…しんどい…しんずい……」
「15点……これじゃ、この次にも帰れそうにないな」

猫の国にみんなの笑い声が響き渡りました。

-----命名 『天衣無縫丸』
Ten001

天衣無縫丸。 略して「てんまる」です。
そのうち「てんまるのブログ」も始める予定ですが、
当分は「酔眼写真塾(猫の穴)」で成長の様子をお伝えします。

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2008年4月25日 (金)

猫の国3-04

Ebi121
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

4)
 猫の国には、虹の泉と呼ばれている小さな池があります。とても透き通った綺麗な水で表面は鏡のようです。
この泉を覗くと、こちらの世界が見えます。少しのんびりしたくて、帰らなかった猫たちも時々ここにやってきます。そして、元の世界のひとパパやひとママやひと兄弟や、猫友達の様子を見るのです。
ここで元の世界を見て、前の王様のようにまた帰ることにする猫もいます。いつでも好きな時に戻れるのです。違う猫に生まれ変わってなので、前のひとパパやひとママは気がつかないかもしれないけれど、でもちゃんと戻れるのです。モモのように。

 いろいろな猫がいます。例えば、帰っても毎回のら猫になる猫です。
「そりゃぁ、猫の国は腹もへらないし、ひどいことをする人間もいないし、雨も降らないし、寒くも暑くもなくて快適だけどよ、やっぱり、あれだな、自力で生きるっていう、あれがいいんだな。うんうん」

 毎日毎日、虹の泉を覗き込んで、いろいろなところを見ている猫がいました。
ある日、
「おっ、見つけた。うひょぉ」と叫ぶと、元の世界の入り口に飛んでいきました。
なにが見えたんだろうと見てみると、そこにはとても綺麗なメス猫が映っていました。

くすっとレオが笑いました。
えびまるは、がはははははと笑いました。
何だ? 何があった? 大勢の猫たちが集まってきて大笑いです。
みんなの笑い声がいつまでもいつまでも猫の国に響きわたりました。

(終わり)

-------------------
えびまるが亡くなって落ち込んでいるとき、友人がブログに、えびまるは猫岳に行って修行をするのだと書いてくれました。どんな修行なのだろう? と、そのブログのコメントに書き始めたのがこの話です。だんだん楽しくなってきて、ここで続けるようになりました。

思いつくままに書き飛ばしてきたので、プロットのようなものです。きちんと仕上げて、またここか、ホームページにでも全文を載せることにしようと思います。

と、いうことでこのブログはしばらくお休みします。えびまるのひとパパ(じゃんぼよしだ)のブログにも遊びにきてください。のら猫写真とバカ話炸裂のトコロですけれど……

にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年4月24日 (木)

ねこの国3-03

Ebi120
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

3)
「えびまる王、えびまる王、起きてください。仕事ですよ」
お付き猫3匹が起こしにきました。
「う~、お腹痛いから休む」と、えびまる。
「あ~、もう、何度言ったら分かるんですか。お腹が痛いわけないでしょ。もう死んでるんだから」
3匹のお付き猫たちは、無理やり犬のぬいぐるみをえびまるに着せました。
「わぁ、えびまるさん、すごいすごい。みんなすごく怖がりますよ」
レオが拍手をして褒めると、
「そうかぁ? えへへ、いっちょやったるか」えびまるはその気になったようです。ひとりでどすんどすんとシャドーボクシングを始めました。

「今度の王様は単純だな」
「レオ君は扱い方を知ってるみたいだな」
「うんうん、レオ君には王様と一緒にいてもらおう」

さあ、えびまる王の初仕事です。犬修行場では説明が行われています。
ドアの後ろでレオがえびまるに
「がんばってくださいね」と言うと、
「まっかせなさーい。体当たりでみんなぺちゃんこにしてやる。うひひ」
なんだか嬉しそうです。
レオにはえびまるが王様に選ばれた理由が分かるような気がしました。

係員猫がえびまるに合図をして、ドアを開けました。
えびまるは、ドスンドスンと四股を踏んで、部屋に入っていきました。
「きゃぁ」「うひゃぁ」猫たちが逃げ惑います。
えびまるは、猫たちをうまく追い立てて一箇所に集めました。そうして、ひとかたまりになってぶるぶる震えている猫たちの真正面でギロリと見回すと、両手を広げて、まるで熊のように立ち上がりました。

「うわぁ、こりゃすごい」
「うーむ、さすがだな」
お付き猫や係員が感心して、ドアの覗き穴から見ています。
「ボクだったら、絶対に気絶してます」と、レオ。

 熊のように立ち上がったえびまるは、ここで、とどめだと考えました。
そして大声で、
「にゃぁーーーーーー」

どどどどど……ドアの向こうで、こける音が聞こえました。

(続く)

にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月23日 (水)

ねこの国3-02

Ebi119
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

2)
「ここが、えびまる王の部屋です」
お付き猫がドアを開けて、えびまるとレオが先に通されました。
「ぎゃー、犬だぁぁぁ」レオが叫んでえびまるの後ろに隠れて、えびまるのお尻にぎゅーっと爪を立てました。
「さっきの犬だ……。でも動かないぞ」
レオが恐る恐る覗いてみると、犬はふにょっとしていて、確かに動きません。
「当たり前です。ぬいぐるみですから」お付き猫が言います。
「ぬいぐるみ?」
「はい、ここは猫の国ですよ。犬がいるわけないでしょう」
「でも、さっきはあの犬、動いてた……」レオは不思議そうにお付き猫を見ました。
「王様が中に入って、犬の役をしていたのです。明日からはえびまる王が入るんですよ」
「ほぇ? 王様って偉いんじゃないの? どうして王様がそんなことしなきゃならないんだ?」えびまるが不満そうな顔をすると、
「いいですか? そういう他猫が嫌がることをするから、王様は偉いんです」
「ほぇ……」えびまるが分からない顔をしているので、3匹のお付き猫が次々に話し出しました。
「私たちは猫ですよ。みんななまけものに決まっています」
「何もしなくていいのが、猫の国のいいところ」
「王様が偉いのはみんなが嫌がることをするから」
「何もしないで偉そうにしているのは人間くらいのものです」
えびまるが、あわてて、
「あー、君達、だれか王様にならないか?」と聞きましたが、
「まっぴらごめんです」
「それでは、私たちは昼寝してきますから」
そう言って出て行ってしまいました。

「あれだけでっかいと、そうとう怖そうな犬になるだろうねえ」
「うはは、明日から来る猫たちはかわいそうだね」
そんな話をしながら。

レオはびくびくとぬいぐるみに近づいて、ちょんちょんと触っていましたが、
本当にぬいぐるみだと確認すると、
「うわぁ、えびまるさん、すごくよく出来ていますよこれ。ちょっと着てみませんか?」と、持ち上げて見せました。
「うー、明日でいいよ。明日で。それより、ご飯ご飯」

えびまるとレオはお腹いっぱいご飯を食べて、ぐっすり眠りました。

(続く)


にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月22日 (火)

ねこの国3-01

Ebi118
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

猫岳 第三章 「猫の国」

「腹へったよう」
王様になったえびまるが王冠をだらしなく斜めに頭に乗せて、へなへなと座ってずうっとぶつぶつ言っている間に、猫たちはみんな元の世界に戻るか猫の国へ行くのかを決めて、それぞれのドアに行きました。
残っているのはレオと王様の付き猫3匹だけです。
「さあ、えびまる王、行きますよ」
「腹へって動けないよう」
「まったく、何言ってるんですか。腹なんか減るわけないじゃないですか。気のせいですよ気のせい」
「ほぇ? 気のせい?」
「猫の国には食べ物もあって、味もするし、おいしいですけれど、食べるのは趣味みたいなもので、食べなくたって死にません。当たり前でしょう? もう死んでるんですから」
聞いていたレオが言います。
「ボクは一生懸命でお腹のこととか忘れてましたけれど、そう言われてみるとお腹空きませんね」
「さぁ、行きましょう」お付き猫の一匹がえびまるの王冠をまっすぐに直して言うと、
えびまるはしぶしぶという感じで立ち上がりました。

 猫の国へ入ると、そこは一面の草原。
猫草や猫じゃらしの草原。どこまでもどこまでも続いています。
ところどころに木が生えていて、草むらや木の枝や木陰で猫たちが気持ち良さそうに昼寝をしています。
そして丘の上には白いお城。

(続く)


にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月14日 (月)

モモ2-08

Momo04_2
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

8)
 アタシには分かったの。この人だって。ごつい体で角刈り頭の怖そうな人だけれど、でも分かった。この人のところに行くんだって。だからアタシは男の子の腕からぴょんと飛び降りて、その人の足元にすりすりってしたの。そしたら、その人はしゃがんでアタシの頭を撫でた。アタシはせいいっぱい背伸びをして、膝にすりすりってした。


「お帰りなさい、あら、猫?」彼女の顔が輝いた。
「うん、そこの公園で、小学生の男の子がいてね……」
説明しながら、猫を渡すと彼女は慣れた手つきで抱いて鼻を擦りつけた。
テレビでニュースが始まった。
『5月19日、今日のニュースです…』
はっとした。ボクシング記念日だ。モモが帰ってきた。そう思ったけれども、自分はこう彼女に言った。
「名前、付けてくれる?」



 猫の国の虹の泉。小さな泉を覗いている2匹の猫がいる。
鏡のように澄んだ泉には、暖かい灯りの部屋で若い男女に代わる代わる抱かれて、撫でてもらって、お腹いっぱいになって、喉をごろごろさせている白い小さな猫の姿が映っている。

「良かったなぁ、な、レオ」
「はい。本当に。モモさん、ちゃんと戻れましたね。えびまる王」

(第2章モモ 終わり)

-----------------------------------

あまり推敲もしないで書き飛ばしてきましたので、かなり雑な文章になってしまいましたが、お楽しみいただけましたでしょうか? おかげさまでランキングボタンもたくさん押していただいています。ありがとうございます。


この後第3章に続く予定ですが、少しお休みします。

もしも、登場させたい猫さんがいましたら、名前とどんな性格だったかをお知らせください。お約束はできませんけれど、この後のお話に入れてみます。


にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月13日 (日)

モモ2-07

Momo03
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

7)
 5月病というやつだ。自分には自信があった。営業でもなんでも男の中の男に出来ないはずはない。軟弱男などに負けるわけがない。そう思っていた。
入社して1ヶ月間、自分の指導役は茶髪のホストみたいな男だった。一緒に得意先を回ったのだが、彼は取引先で仕事の話など全くしない。それどころか受付や事務の女性とくだらない話をして笑っている。こんなヤツなどすぐに追い越せる。そう思った。
5月になって一人で営業に回り始めたのだが、話を聞いてすらもらえなかった。
こんなはずはない。そう思って気合を入れれば入れるほど空回りする。
ただ、今日は金曜日だ。毎週金曜日は彼女が夕食を作りにきてくれる。彼女の作る食事は美味しい。彼女との会話は楽しい。少し元気になって家路を急いだ。

 小さな公園の角を曲がると卒業と同時に引っ越した新しいアパートが見える。普段は暗い窓しか見えないが、今日は電気が灯っているはずだ。
暗くなり始めた公園のベンチに座っている小学生くらいの男の子に目が留まった。白くて小さな猫を抱いている。
気がつくと、声をかけていた。
「かわいい猫だね」
男の子はびっくりしたように自分を見ると、
「ここにいた。連れて帰ったら、お母さんが戻してこいって」

(続く)


にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月12日 (土)

モモ2-06

Momo02
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

6)
 気が付くとアタシは小さな公園でにゃぁにゃぁ鳴いていた。早くだれかに見つけてもらわないとお腹が空いて死んじゃうかもしれない。
にゃぁ、にゃぁ、力いっぱい呼んだ。
しばらく鳴き続けているとランドセルを背負った男の子がやってきた。
「あっ、子猫だ」そう叫ぶと男の子は駆け寄ってきてアタシを両手で持ち上げた。
アタシは男の子の両手にすっぽりと隠れるくらい小さかった。
頭の中で『違う』っていう気がしたけど、すごくお腹が空いていたので、アタシはその男の子の鼻をチロっと舐めてあげた。
「真っ白いんだね。小さいね。お腹空いてるの」
そうアタシに話かけながら、男の子は家に向かって歩いた。

「ただいまー、お母さんお母さん」
「お帰り」
男の子がそっと両手を前に上げて「お母さん、猫」と言った。
「何、その猫」
「公園にいたの。お腹空いてるみたい」
お母さんはしばらくアタシを見ていたけど、
「ダメ、家では飼えないわよ。ご飯あげてもいいけど、公園にもどしてらっしゃい」
そう言うとアタシのことも、男の子のこともいっさい見ないというように、台所に向かった。

(続く)


にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月11日 (金)

モモ2-05

Sora01
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

5)
 モモの息子がいる2軒隣のおばさんが、ペット葬儀場に連絡して、全て手配してくれた。自分は言われた通りにそこへ行きモモを見送った。晴れ渡った青空に煙突からゆらゆらと透明な水蒸気のような陽炎が登っていった。帰りに空を見上げると、さっきまでは雲ひとつ無かった空に白い綿雲が浮かんで夕日に赤く染まっていた。

甘えたくなるといつも膝にタッチした右手の骨と、時々自分の手を甘咬みした歯をロケットに入れてペンダントにした。バイクに乗って海まで走った。
「モモ、これが海だ。始めてだろう?」
砂浜を歩いた。
「モモ、でっかい猫トイレだ。どこでしてもいいぞ」
砂浜に寝転んだ。
夏の太陽がまぶしくて涙が流れた。止め処なく流れた。
自分は男の中の男だ。強い。関東大学選手権3位の実力だ。でも、立ち直れないかもしれない。そう思った。

 翌年の4月、無事に卒業した自分は就職した。そして彼女ができた。人間の、だ。
当然だが、彼女から告白してきた。卒業式の日だった。
「先輩、去年の夏頃から変わりましたよね。なんだかやさしい感じに」
1年後輩の彼女はそう言った。男の中の男はやさしさだって持ち合わせているに決まっている。気付くのが遅いのだ。
きっかけはというと、年末に、ちょっとやっかいな講座のレポートで困っているのを知って、アドバイスをしてやった。どのゼミに進むべきかの相談にも乗った。もちろんただそれだけのことで、自分からアプローチなどしたわけではない。
彼女は実家に猫がいると話した。自分はモモという猫がいかに素晴らしい猫であったかを教えてやった。話していると涙が出そうになったのにはびっくりしたが、我慢した。
モモの話を聞いている彼女の顔はとてもやさしい笑顔だった。

(続く)


にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月10日 (木)

モモ2-04

B10
【このお話は続きです。初めての方は「猫岳1-01」から読んでください】

4)
 モモはのんびりした猫だった。紐の先を結んだだけの即席猫じゃらしは大好きだったけれど、走り回ってじゃれつくようなことはせず、座ったまま手だけで遊んだ。自分の膝の上が好きだった。膝に乗ってすぐに寝るので、動けなくて足が痺れた。夜は首の上に乗って寝た。ちょっと苦しかったけれど冬は暖かかった。

 桃の季節が2回過ぎて自分は4年生になっていた。就職の面接に行ったその日は暑かった。自分は男の中の男であり、どのような厳しい仕事であろうとやり抜く自信があると堂々と述べた。帰りにはもう受かった気になって、来年からはモモに毎日上等なご飯を食べさせてやるのだと、電車で想像した。まだ半年も先なのに駅前の不動産屋でペット可の貼り紙を探した。

なのに。

 その日の夜、動かなくなったモモを膝に抱いて号泣していた。美しい毛並みに涙が何粒も何粒もこぼれて落ちて染み込んだ。
もっともっと遊んでやればよかった。一番高い猫缶、一度くらい買ってやればよかった。気恥ずかしくてペットショップで本物の猫じゃらしを買えなかった。
もっと、もっと……。
ごめんね。ごめんね。ありがとう。ありがとう。

(続く)

にほんブログ村 猫ブログ 猫 ペットロスへ クリックしていただけると励まされます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧